中林秀之事務所

経営の矛盾する課題に、どのように対応しますか?

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経営の矛盾する課題に、どのように対応しますか?

経営の矛盾する課題に、どのように対応しますか?

2019/03/08

 日々様々な問題が発生する経営活動。著名なハーバード・大学ケネディスクール教授のロナルド・ハイフェッツは、それらの問題を大まかに二通りに分けています。ひとつは「技術的な問題」。文字どおり技術的な対応によって解決する問題です。もしITの仕組やリテラシーの問題だけが単独で起きたならば、確かに技術的な観点からの解決が可能かもしれません。ただし、現在AIやバイオテクノロジー等が指数関数的な発展を見せている中で、さまざまな問題と複合的に絡んでくる可能性が高くなります。技術だけでなく、個人の素養やそれぞれの強み弱みによって、組織的な編成やコミュニケーション課題などと連動して考える必要が出てくる、といったようなことです。ハイフェッツ教授は、そういった問題を「適応が必要な問題」と呼んでいます。現代、そして今後はますます問題が複合的に絡む複雑化が進み、後者のような問題が増えてくると考えられます。
 それは、技術や組織開発等多くの面で最先端を走っているような大企業だけではないと思います。国内でほとんどの割合を占める中小企業でも、経営者を悩ます課題の多くが、より複雑化しているのではないでしょうか。例えば一般にヒト・モノ・カネ及び情報といわれる経営リソースの中で、それぞれの要素が相互に絡み合っています。代表的な問題のひとつは、資金繰りを巡る問題で、ほとんどの経営者が悩まされますが、もしもそれが単独の問題であったならば、売掛・買掛処理や借入・返済調整、緊急時のコストカットなどで一時的に“技術的な問題”として対応が可能かもしれません。しかし資金繰りの問題が繰り返し起きると、その悩みを本質的に解決するためには、人材採用や教育、あるいは事業ポートフォリオの見直し、戦略的リソース再配分のような問題と結びついてきます。一方で、新たな見直しには、対応できる投資資金が必要となり、悩ましい状況に陥りがちです。典型的な短期的な問題と中長期の問題の一見矛盾した問題への対応といえます。あるいは、組織内でよく起こりやすい営業と技術の意見の食い違い。どちらの立場からの意見も正しいのですが、異なる視点からすれ違いになり、さらに異なる製品群間での開発コストや人材配置等で複合化した問題に発展しがちです。さらには、強みを有する既存市場や製品群の継続的掘り下げが必要ですが、同時にそれだけでは先細りになりがちなため、新たなビジネスカテゴリーに乗り出したいが、リソース不足で困難のまま時間が経過していく問題なども典型的かもしれません。
 以前、日本でも大企業~中堅企業を中心に、バランス・スコア・カード(BSC)という経営ツールの導入が進みました。ハーバード大学のロバート・キャプラン教授等が中心となって開発された手法です。弊所もコンサルティング活動の中で度々活用しました。基本的には、財務と非財務、短期と長期、外部環境と内部環境等さまざまな経営バランスを考えた良い手法ですが、実際の運用は簡単ではありませんでした。部門ごとの管理段階になっていくと当初の戦略マップとの乖離が激しくなったり、結果としてKPIだけが一人走りしたり。特に中小企業では、やや複雑すぎる印象があったかもしれません。
 このような日々の経営の矛盾する問題対応に、BSC以外にもさまざまなツールや手法があると思います。“ポラリティ・マネジメント”と呼ばれる考え方もそのひとつ。ポラリティ(Polarity)とは、極性とか対立を意味する言葉ですが、すなわち経営における対立する矛盾点をマネジメントする方法です。
 代表的な進め方は、対極になる問題要素について、それぞれのプラスとマイナス点を洗い出しながら、その全体構造にまずは気づくことが重要で、どちらか一方を選ぶのではなく、その第三の道やバランスを考えていくプロセスに入る、といった形になります。見方によっては、哲学でいうヘーゲルの弁証法における止揚(アウフヘーベン)を経営やビジネス局面に転用する方法といえるかもしれません。矛盾する両極の一方を選択するのではなく、より高い次元で統合した解決を探るというもので、イノベーションを生むプロセスとしても転用可能であると思います。業績評価等にも活用されるBSCとは目的も異なるので、比較はできませんが、矛盾する問題に対応する方法論としては、よりシンプルな方法といえるかもしれません。
 もちろん、そのようなメソッドやツール自体が重要なのではなく、いかに経営を一面的もしくは限られた視点からでなく、極力多くの視点から常に捉えていく姿勢を保持できるかが重要ではないかと思います。またそのことが先ほど述べたような「適応が必要な問題」を解決していく本質にもつながるのではないか、と考えます。特にハイフェッツ教授が言及されているように“適応が必要な問題を、技術的な問題として誤認して対応してしまう危険性”が大きいようです。結果的に、表面的もしくは一時的な解決にしかつながらず、抜本的な革新にはつながらず、気づいたときに致命的な問題に発展する、というリスクです。特に複雑化が進む現代において、対立や矛盾に適応する経営課題を正しく認識して、適宜の対応を進めたいものです。

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